辺り一面砂、は、当たり前の生活だったんだけど。
「…まさか溺れるたぁねぇ」
「浅瀬でしか泳いだことなんてないよ!むしろなんでレーウィーは泳げんの!」
「昔渡った世界にゃぁ、人口の泉みたいなもんもあったのさ」
水着って着るの二度目だなぁとかぼんやり考える。
なんか水着はトラウマになりそうだと思った。(サマバケとかサマバケとかサマバケとか)
イルカ浮輪にぐったり掴まりながらできるのは憎まれ口を叩くくらいで、師匠はそれこそ涼しい顔でゆったり泳いでいる。
ちなみに、これのどこが浮「輪」なのか、滑るわ跳ねるわで溺れるのと大差ない、と言ったら、「輪になっているものもあるが、千尋の谷みたいなものだと思いな」と一蹴された。
アニタでさえ犬かき(狼だけど)で器用に泳いでいる。
「…てかアニタは何普通についてきてんの、元エキュオスのくせに」
「アンタこそ今更何を言ってんの、アタシはレーウィーの作った器にアンタの命で繋がれてんのよ」
…アニタにまで呆れたように、…というか見下されたように言われる。
女って強い。
地面に足がついた時は色々な疲労でげっそりしていた。
けれど、マナ…あの島特有の何か纏わり付くような感覚は欠片も残っていなかった。
体も濡れていなければ先程まで浸かっていた水もない。
いつもの服に、愛用の装備。照り付ける太陽。
見渡す限りの砂と岩場。
照り付ける太陽をときどき遮る飛竜の影。
ピアスだけは、師匠に返して取り替えたまま、その耳で光っている。
「…あの島からは何も持ち出せない、ってか」
日射避けの布を持っていたのはレーウィーだけだったから、隣に寄り添ってその布を頭上に広げる。
アニタは砂の暑さに肉球を焼かれないようぴょこぴょこと歩いていて、
その姿が可愛らしかったから思わず吹き出したら、物凄い目で睨まれた。
…ぴょこぴょこしながらであんまり怖くなかったけど。
すると、火のついていない煙草をくわえた師匠が唐突に言った。
「アンタとあたしの形作ったものがそこにいるじゃないか」
「あ」
アニタを見て、まだ睨んでいた相手と顔を見合わせる形になる。
「それに」
相変わらずどこかけだるげなレーウィーの声。
「夢でも幻でも覚えている、それで十分だろう?」
進路を定めるように遠くを見ながら、その唇が釣り上がる。
「…そーいや師匠、ユーグレのお母さんとキスしてたよな、浮気?」
「さぁ?」
「てかさぁ、本当に探してたのってエルゼねーさんじゃぁなくてユーグレのはは…」
「あの魔女とのティーパーティーも頓挫しちまった」
俺に最後まで言葉を紡がせず、忌ま忌ましそうに舌打ちをする姿に、それ以上口を出す勇気もなければ、そこまで野暮でもない。
「まぁいいさ、自力で世界を渡れることは分かったんだ」
あたしも立派なウィッチになったもんだ。
自嘲とも満足ともとれる笑みを目許に刻み、砂を踏んで歩き出す。
「とにかく街なり集落なりを探す、一休みしたら足を調達して帰還だ。…まず休める場所までがどれだけかかるか分からないがね」
「…あの島より遠くないのは確かだね」
ハキハキと指示を出したレーウィーにそう言うと、ちらりと黒い瞳がこちらを見る。
そして、二人で声をあげて笑った。
熱砂と格闘を続けていたアニタに、砂に足を埋めるといいよと告げると、もっと早く教えなさいよといつも通りに睨まれた。
俺はまた笑いを堪えきれなくて、更にアニタの怒りを買うことになった。
その後が知りたい?
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